オリジナルデザイン
2019/04/27 11:16 平井則行

これが、このたび誕生しましたオリジナル・デザインのギターです。このギターは悲しい前世がありました。以下が、このギターの魂が遍歴をした物語です。暇な人は読んでいってください。

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 昔々、私(当時30代)がある官公庁の理科の教官という職業に就いていたとき、職場の仲間とバンドを組み、学校祭で職員バンドとして出演しようという企みが生まれたことがありました。あるときの宴会で、私がギターを弾くということを知った別の部署の若い人たち2人と、もう一つ別の部署の少し年のいった人の4人でベンチャーズ・バンドをやろうというものでした。特にドラムをたたく人(30代前半)がベンチャーズが好きだという人とは完全に意気投合したのですが、その人が引っ張り込んだベースの人(20代)はハードロック好きで、もう一人、リズムギターを担当してもらおうとした方は、40代なのか50代なのか正体不明のウエスタンかぶれの怪しい人でした。このウエスタンかぶれの人は髪型からしてエルビスのように揉み上げの長いカントリー・ウエスタンでして、この服装規定が厳しく堅い職場の割に見事な長髪でラッパズボンをはくような変な年寄りでした。こういう人は士気に関わるというので実戦部隊からは敬遠され学校という、とりあえず最も平和な部署に飛ばされてきます。あだ名は“モミアゲ”でした。そして、このひとが参加するといって持ってきたギターがエレキ大全盛で一世を風靡したベンチャーズのモデル、モズライトギターをコピーした全音のモラレスです。このギターはいまでも中古で根強く売られており、愛好するマニアもいるギターなんですが、当時からすでに、もっと精巧なコピーのモズライト・ジャパンが出回っておりましたから、かなり位の低い、値打ちの感じられないギターという存在でした。そして、その人自体もギターの腕前はほとんどカントリー・ウエスタンの歌をきわめてリラックスしたテンポで歌う程度のレベルで、決して器用なタイプではなかったのです。知っているコードも3コード。ギタースタイルといえばローポジション・コードを、悠然とうちわでも扇ぐようなテンポで、ほのぼのとした気分で弾くスタイルでした。私らが求めていたアグレッシブな速いテンポのものからはほど遠いもので、それを見た瞬間、私の胸の内に暗雲がたちこめ、これはダメだ、と思いました。そういう雰囲気が顔に出たのか、練習には1回来ただけで、もしかしたら忙しいのか、本来のんびりとした性格なのか理解不能のキャラクターでしたが、その後もいくら待っても練習に来ませんでした。結果、学校祭が近づいてきて焦りはじめ、私はリズムギターを担当してもらうために、もう一人の同僚を拝み倒して無理矢理参加してもらいました。結局、バンドの出来は散々で、本番はしっちゃかめっちゃか。ウエスタンかぶれの持ってきたモラレスは取りに来なかったのでそのまま放置されました。


学校祭が終わったあとに、練習場の教会跡(これは米軍が日本の敗戦時に接収した旧陸軍後に建てた教会で、隣には映画館だった建物もあって木造でしたが練習にはもってこいの隠れ家だったのです。ベトナム戦争の最中は、戦死者を本国に送る前の死体置き場となっていた教会ですが、これが取り壊されるということになり、すべて撤去となったため私が引き取りました。手にとってみたら、ギターはひどい状態で、ネックは順ぞり(弦が引く方向に反ることをいう)で弦高が異常に高く、きわめて弾きにくいことがわかりました。ウエスタンかぶれは、このギターには未練がなかったみたいで、その人に返すにもほとんど会うこともなくなり、自然と最終的にリーダーだった私のものなった次第です。で、保管していたのですが、いつまでも弾けないギターを持っていてもしょうがないので、思い切ってそのギターの治療に取りかかりました。まず、ネックのそりは水につけた後おもりをぶら下げて矯正し、しかる後に太かったものですから細く削って握りやすくしました。ギターのネックというのは当然握って弾くので太いと握るのが精一杯となり、弦を押さえる指の動きに悪影響をします。これは細いに越したことはありません。リードギターではなくリズムギターなどは手の指全体でコードを押さえるので、あまり細いと逆に握力を消耗するのである程度太くないと弾きにくいのですが、メロディーを担当するリードギターは、細い方がいいのです。うんと細くしても、ギターのネックには中心にテンションロッドという鋼鉄製の芯が入っていて、ねじ式に締め付けて弦の引っ張りに対抗するように出来ていますので、大丈夫なのです。このテンションロッドを締め付けると逆反りしていき、弦の張力とバランスして反りと弦高を最低にするように調整可能な構造になっています。さて、件のウエスタンかぶれはロー・コードしか握らなかったので、太くても気にならず、弦高だって高くても良かったのでしょう。(ただし、それでも弦高は必要最低限の低さの方がいいとは思うのですが)ボディも非常に重かったので、窮地の思い付きで裏を堀削り化粧板という3mmのベニヤ板でふさぎ、セミアコースティック風の中空になった軽いボディにしました。これでいろいろ調整した結果、なんとか弾けるようになったのですが、結果がびっくりでした。これが意外といい音で鳴ったものです。

 閑話休題、この青く塗った以前には真っ赤に塗っており、その前はデフォルトの白(アイボリー)でした。ボディの色というものは実はデザインだけの問題でして、何色だろうと音には一切関係ないのです。しかし、塗料の違いは重要です。大量生産されるギターの大部分はポリウレタンといってプラスチックの塗装が主流です。なにより、経年劣化がなく傷もつきにくいからですし、工業製品としても安価で丈夫だからです。これに反して、楽器はバイオリンやチェロといったクラシック楽器の時代はポリウレタンなどなくいわゆるニスでした。それも、現代の合成ニスではなく植物由来のニスです。これは塗装としては薄く塗れてしかも渋い艶があり、磨くことが出来て理想的なのです。古くなると、適度に剥げてきて、ビンテージ感が出てきます。エレキ・ギターなどはラッカー塗装が主流でした。これも、クラシック塗装といってもいいでしょう。現代ではポリウレタンです。これに反して、耐久性はともかく、ニスは薄く塗装できるので、板の響きを殺しません。ポリウレタンはその点、響きに関してはネガティブで響きを押さえます。ラッカー塗装されたギターとポリウレタン塗装されたギターとを聴き比べると、あきらかにラッカーの方がクリアな音が出ているし繊細な感じがします。ポリウレタンは鈍いです。これは、ちょっと繊細な人なら聞き分けられるほどの違いです。大音量のロックなどでは、耐久性に優れるポリウレタンの方がいいでしょうが、微妙な音色のニュアンスをつけようと思うような静かな楽曲では、はっきりいってラッカー塗装された楽器が向いていています。
その右の写真はフレットペグの擦り合わせをしているところで、ギターというものは人によって弾く場所が曲目によりフレットの減り具合が異なり、使いこなすうちにだんだん特定のフレットだけすり減ります。すると、その上のフレットで妨げられ音がびびり始めるのです。そうなったら、写真にあるような、ダイヤモンド・やすりでフレットの擦り合わせを行います。これはメンテナンスの基本です。弦を張り替えたときにやりますが、今回、この作業をやっている最中に、どうせならと、ボディを作り直してやろうと思い立ったのでした。
 
 そもそも、なぜ楽器は塗装されるのでしょう。その回答は単純なものです。汚れや湿気から楽器を守るためです。本当は音響的には木材そのままの生の表面の方が圧倒的に響きに対していいのです。これは、物理的に明快な理由があります。材質が単一の物体の方が振動しやすくサスティーン(音の持続)が長いからです。
 複合材になるほど音速の違いから来る二つの異なる固有振動がお互いを殺し合うことになり、内部損失という名で呼ばれる音響振動を熱に変える現象が起こります。振動エネルギーはどんどん熱エネルギーに代わり、振動があっという間に減衰してしまうからです。これはエントロピー増大の原理に起因します。あまり単一の固有振動が続いても楽器としては困るでしょうが、そもそも楽器の形は単純ではなく、いろいろな固有振動に対応した振動をしているものです。これが豊かな”なり”を生みます。
 たとえば、音叉は一つの固有振動で鳴りますが、これが鐘になると、中心周波数の周りにいろいろな倍音が付随して鳴りますので、音が単純ではなくなり豊かな味のある音で響き渡りますね。音叉のようなものは響くとはいいません。鳴るです。
 楽器は独特の形状をしており、いろいろな周波数に連続して共鳴するように造られております。これは長い年月の経験の積み重からくるノウハウで決まった形なのです。変な形のギターがたまにありますが、それらは、音響学的には何の根拠のない、出たとこ勝負の音なのです。写真は理論は一切超越したバイオリン型ベース。ベース楽器ですから、本当は大きなボディが必要ですが、これはベース音はマイクで拾うので形とは関係ないものです。強いていうと、倍音だけ拾い、音に独特の味付けを期待するものなのです。本当のベース楽器は巨大なコントラバスですね。

 塗装から楽器の形まで話が広がり、焦点がぼけましたが、本質は振動を殺すのは複合材だということで、なるべく単純でシンプルな材質がいいのだというのが”きも”です。
 よく、エレクトリック・ギターでもトップ材はメイプルで母体はアルダーとかアッシュだとかいうものがあります。メイプル材には美しい模様の”虎目”とか”鳥目”といった木目のものがあり、高級感がありますので、表面だけメイプルにするものがあります。音響的にはこれは疑問です。ただ、音楽は理屈だけではないので、見た目も重要かもしれません。ここでいえることは合板や集積材はダメだろうなということです。木材については、堅い木材のものは木材内部の音速が速いので、振動スペクトルが高音側に偏り、カンカンした音に鳴り、木材が軟らかいと音速が遅くなり低音側に偏るので、ぼんぼんした音になります。
 また重量も、木材が軽いと抜けるような高音という表現になり、重いと詰まったような渋い音、といった具合で、木材は音を決める重要な役割を持ちます。いずれにしても、適度に堅くて、しかも加工しやすく、重くないのが理想です。ざっくりいうと、軽いギターの方が音がいい、とまで言われます。その理由は、響きがいいからです。プレイアビリティ(演奏しやすさ)からいって、軽い方がいいですよね。


 さて、話が長くなりましたが、この新しいギターは、新生モラレスの4台目です。
 
 ひいき目かもしれませんが、生まれ変わって喜んでいると思います。なにより、弦を張るときに感じた響きの良さです。サスティーンも長く感じられます。今まで改造してきたギターの中で一番響きがいいです。アンプを通さない状態での生音が一番大きく綺麗です。もっと誇張していうと、持っているギターの中で一番音がいいです。42万もしたUSAより、20万したジャパン製より、その他、16万も14万も8万も1万6800円よりも、音がいいです。理由は正直わかりません。ただ、裏をくりぬいたセミアコースティック構造と、明らかに異なる形とか、ボディに直づけしたボリューム類とか、裏の配線のために開けてそのままにしたホールの存在が違いの原因でしょう。もちろん、木材が安いホームセンターで買ってきた建築材のホワイトウッド(別名スプルース材)なのかもしれません。が、これは一度、バイオリンギターで使っており、そのときの響きと違うので、やはり形が一番おおきな理由かもしれません。あと、うらの共鳴ホールが蓋をしないでおいたのも多少は機能したのかも知れません。

このギターは、もともと、モラレスの改造ギターで、今回本気を出して生まれ変わらせてあげたものです。仕上げもいい加減だったこともあり、人前に持ち出すのも憚れるものだったのです。私としてもできあがりに大変満足しており、他のギターに比べて使われなかった分フレットの減りが少なく、長く使えそうなので、これから当分の間はこれを使い倒してやろうと思っております。メーカー製のような完璧な仕上がりではなく素人工作の不完全な分、却ってその方が愛着が湧こうというものです。





1.モズライトについて(本文)
2.ボディの完全制作(2016年夏本文))
3.古いギターのセミ・アコ化(2016年秋から冬)
4.セミアコ・モズライトの音と演奏サンプル(2016年冬)
5.バイオリン・ギター(2017.春から夏)

6.オリジナル・デザインの制作(モラレスの改造 2019.4.27)
7.このギターを使った演奏サンプル(2019.暮れ)

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ところで、ボディ形状はちょっと迷いました。モズライトのようなジャーマン・カーブ・トップにするかどうかです。色については、この写真のようなゴールデン・オークでも良かったのですが、純正のモズライトとは大きく異なるボディですので、ジャーマン・カーブは少し無理があるかなと思ったからです。ただ、真っ平らだと抱えたときに脇が痛いので何らかのカービングはするつもりでした。結果的にジャーマン・カーブに決定!モズライト63年型の型取りをします。この方法は、厚紙をはさみでだいたい近い形を切り取り、それに垂直にホットボンドで局面に沿わせた紙と合体して丈夫なものにするのです。この程度の型は、なぞるだけの型ですから頑丈なものはいらず、これで十分です。このカーブは、やってみるとモズライトの外周のほとんどが同じ形でした。念のために、あちらこちらの型を取りました。
 ジャーマン・カーブより苦労したのはネック取り付け溝でした。モラレスではテーパーがついていて、だんだん外に行くにつれ深くなっていました。モズライトではネックの方にテーパーがついていて、この溝の深さは一定で良いのでした。(バイオリン・モズライトの時)。そのようなわけで、右の写真のような治具を造り、なだらかに傾いた平面を掘ります。この傾斜角度が難しく、一度取り付けてネジを締め付けた後に、弦を張ったらブリッジの部分で高くなり過ぎたことに気がつき、やり直したので、強く締め付けたデフォルトのネジが外すとき壊れました。緩めるトルクで捻切ってしまったのです。しかし、2回目は偶然うまくいき、完成後は弦高も低く、かつ、オクターブもドンピシャ出て、うまくいったのは幸いでした。この、オクターブを出す加工というのは簡単だと思うのですが、メーカー製でも割といい加減で、オクターブの出ていないギターが結構あります。オクターブというのは、12フレットまでの長さと、そこからローラー・ブリッジまでの距離が等しいことを言うのです。簡単だと思うのですがね。この半分の長さは、モズライトのようなミッド・スケールではぴったり32cmです。
下の写真にあるように、ボリュームをアーム・ブリッジを乗せて、デザインを確認したとき、右の写真にあるようなモズライトのピックガードはいらないなと判断しました。もとより、モズライトのデザインに飽きて、このような斬新なデザインを考えたのですから、今更、モズライト独特のピックガード・デザインである必要はないのです。いっそのこと、ノーキーが晩年愛用したヒッチハイクギターのようなボリューム直づけデザインが良いなと思いました。そもそも、ピックガードというのはなぜ付けるのか、昔から疑問に思っておりました。これは、スチール弦のアコースティックギターにも付いていて、激しくかき鳴らすロックギターではある程度意味はわかるのですが、塗装がポリウレタンになって丈夫になった現代のエレキギターでは要らないでしょう。ただ、配線の便宜上、もしくは簡便に大量生産する都合上、溝隠しにピックガードが本来の機能としてではなく付き続けているに過ぎないと思っています。確かに、スイッチやボリュームをボディトップに直付けすると、裏を彫って、カバーが裏に来ます。私のギターは、もともと裏を彫りますから、加工がデリケートですが、この方がデザイン的にも良いのです。
最後に、クリアラッカー塗装です。昔のニスが良いのですが、現代のニスというのは紛い物で、エナメルと同じ成分の透明ニスにステインで色づけしたものですから、ラッカー塗装が次善の策です。古いギターはラッカー塗装が主流でした。このラッカーは、年代物ではひびが入ったり、揮発有機溶剤が近くにあると軟化して艶がなくなり、最悪は醜い圧痕が付く欠点がありますが、そういうことに注意していれば楽器的には響きが良くて艶の光り具合など、長所が欠点を凌駕します。塗装直後の乾きが速いというのが最も利点の一つで、素人的にも、塗装後の後始末がしやすいです。

 そうはいっても、艶を出すためにある程度ラッカーの乾燥しない間の表面張力による塗料粒の融合を促すために、ある程度厚塗りをせざるを得ないので、タレが起こることを避けなければなりません。このタレ対策の一つが、下の写真のような子豚の丸焼き式回転乾燥装置です。ぐるぐる回して、タレが生じることを避けます。
ただ、今回のギターはセミ・アコ構造でシナ合板の裏蓋を張ってありますのでつなぎ目が目立ちました。 このため、いろいろと他にもアラが目立ち気になりましたので、途中までのゴールデン・オークの上にさらに、メイプルナッツのステインで色を濃くしました。
  
 下の写真でわかるように、ギターのボディを中心軸で支え、回転するように工夫しております。艶が出るように、ラッカーは厚めに吹き付けますので、どうしてもタレが生じます。タレというのは塗装では基本中の基本で避けねばならない現象です。薄く塗ると、揮発性の高いラッカーではラッカーの微粒子がすぐに乾燥して粒同士の表面張力による合体が出来ず、ざらざらな表面になります。ですから、ラッカー薄め液が揮発しないうちに表面張力で溶けあり、光沢面になるよう厚く塗らないといけないのです。そのかわりに、重力の方向を相対的に回転してタレが生じないよう気を配りながら手で回してやります。この技術は前回のバイオリンギターの塗装の時に開発したものですが、そのときの写真が転送ミスで紛失しておりましたので、今回が初の発表です。本家モズライトの職人のEd Elliott氏のサイトに見られる塗装中の写真では、すでに取り付けられたネックを持って手で握り、上に翳しながら吹き付け塗装をしていましたが、それって、結構マイクやビブラミュートなどがついていなくても、ギター本体が重いので、相当腕力がいる作業です。私の方法は、それに比べて楽です。ただ、回転軸方向には軸を傾けないと重力方向は固定してしまいますので、ボディのごく一部分はたれないように気をつけなければいけません。
現行のモラレスも、もはや、ハードオフなどにしか存在していません。しかも、それも素人改造されたきわめてへたくそな塗装をされた代物ですが、2万6000円の値がついていたので、2度びっくりですよね。いつまで売れ残るか、ちょっと興味津々です。
左上の写真に、3回目の姿のモラレスが見られます。これが、改造前の最後の姿です。その左にはトラ目ネックのテレキャスターの改造版が見られます。モズレー・アームが付いているのがおわかりでしょう。それと、ボリュームやスイッチを付けた金属パネルの向きが、オリジナルとは逆向きに付けられていることにお気づきでしょう。配線をやり直して、上が音量で、下がトーンになっています。マイク切り替えは演奏中にやることはほとんどないので一番下になっています。デフォルトのテレキャスターでは、このスイッチが一番上で、ボリュームやトーンがその下、変ですよね。
 このテレキャスターは、ネックを細く削ってありまして、音が独特です。 
 右上の写真をご覧ください。貴重なプロトタイプのモズライトの写真です。
 その昔、ノーキー・エドワーズがセミー・モズレーのところに行き、自分のテレキャスターのネックを細くしてくれと頼んだそうです。そのときに、ふと、傍らにあったプロトタイプのモズライト(まだ、ロールブリッジでもなく、アルミの削り出しブリッジでした。)を手に取り、弾いてみたところ、大変気に入り、他のメンバーにも紹介して、次のレコーディングの「サーフィン」に使うことになったという話です。このときに、モズライトのベンチャーズ・モデルが誕生したのでした。カントリー・クラシックなどもモズライトの音ですよね。コイルの巻き数がその頃のエレキ・ギターの2倍巻いてあったために、当時の真空管アンプでは、ギター側のボリュームを最大にすると音が自然にひずんだそうです。これが、今に伝わる、ベンチャーズのサウンド、モズライト・サウンドの歴史です。
次の写真は色を決定するために仮塗装をしたあと、乾燥しているとこのものです。
色はなるべく素材を生かした木目の見える浅い色を目指しました。透明ニス用に色づけするためのステインと呼ばれるもので、油性のペイント薄め液で溶かされています。完成時には上から透明ラッカーを塗る予定なので、十分乾かさないとラッカーとペイントが混合し、おかしな具合になるのを避けるためです。一番最初に生の木材にプリンター・インクのイエローで木材の色味を調整しておきます。この上から、オークのステインを塗ると、ゴールデン・オークになり、綺麗なのです。
ギターなんて、もう、見た目とか値段ではありませんね。結果オーライです。いい音で鳴らなければ何十万円何百万とかする楽器があっても弾く気にもならないものです。ホント。
付:左がバイオリン型ギターで、右が赤いポリウレタン塗装されたメーカー製の取り外されたボディ。このボディの時は響きがいまいちで、はっきり言って音が塗装に殺されていると感じました。
電動鑿で粗彫りし、最後はいくつかの手彫り鑿です。本物がどうやるかは知りませんが、昔のUSAモズライトは最初こそ鑿で彫ったに違いありません。時間はかかりますが、割と難しくありませんでした。半日もやればできあがります。
金属部品を乗せてみて、デザインと全体のバランスを確認します。だいたい良さそうです。

この後、いよいよ取り付け位置を決定します。一番重要な場所決めはネックの取り付け位置で、これが決まると、ブリッジの位置が決まります。第1フレットから第12フレットの長さが全体の半分です。これを正確にやらないとオクターブが出ません。すべてのローラーブリッジの微調整位置を真ん中にあると仮定して、第12フレットまでの距離と等しい位置にブリッジを置きます。これで、アームの取り付け位置も決まりますので、鉛筆でねじ穴を書きます。ネックの取り付け穴を掘った後に最終決定し、ドリルで穴を掘ります。

一番最初の工具は伝動ジグソーです。これでだいたいの形にしてから、さらに、切断面を垂直にし、形を決めるために電動トリマーで周りを削ります。トリマーの刃は長さが足りないので、裏表両面から攻めていき、正確さを追求します。
ほぼ、すべての取り付け穴が出来ました。

 意外とうまくいったのは、ネック取り付け周辺の部分(左の写真)で、こういう作業では、刃物の切れ味が最大の決め手です。ある程度高価な鑿を何通りか使います。

 この木材は、ホームセンターで売っているホワイトウッドというもので、欧州原産のようです。響きが良いことで、バイオリンやピアノの響板などにも使われるものです。スプルースとも呼ばれますが、一般のホームセンターで売っているものは厚さがモズライトより4mm足りないので、裏にシナ合板を貼るので、ついでに裏を写真のように掘り、空洞を造ります。こうすることで、共鳴胴ができ、セミアコースティック構造となります。軸の真ん中部分は逆にソリッド部分を残し、弦のテンションに耐えられることを狙います。ソリッド・ギターのカラッとした青空に抜けるようなエレキサウンドと、アコースティックの切れ味のある豊かな響きとの両方の特徴を兼ね備えた、うまい方法だと思っております。実際、ソリッドギターにこの改造をしたギターは、オリジナルの音より抜けのある豊かな響きのギターに変わり、明らかに好ましい方向に音が変わりました。これは、はじめにモラレスの最初の改造で発見し、その後も65年モデルのジャパン・モズライトを63年型セミアコースティック・ギターに改造したものでハッキリと確認しております。この、シナ合板で裏を蓋する構造は、先のバイオリン・ギターで踏襲していて、今回が4回目です。

 
 右が裏蓋のシナ合板。このギターでは、スイッチとかボリュームを木材直づけにするので、裏から取り付け穴を用意します。
左のバイオリンギターはボディの形と大きさがサウンドにどう影響するのかを確かめるために製作したもので、右にあるメタルレッドのぴかぴかボディの時に比べて、音がドラスティックに変わり、ちょっと、テレキャスター的になりました。それで、ノーキーのテレキャスを使ったLPの曲を2曲ほど
 ストーミー・ナイツと 
 ナオミの夢
録音してみましたが、音がそっくりに作れて超グッドでした。形もユニークでインパクトがあると思うのですが、なにぶん、形が形なので、座って弾くのになめらかでない角が太ももを大変刺激します。それで、革製のストラップの上に角をのせて弾いていたのですが、保持するのがちょっと面倒くさいので、今回の新作となりました。
 大変気に入ったので、ボディ形状とボリュームつまみの直づけ、および、裏側の共鳴ホール2つは、これから、私のギターのトレードマークといたします。
サンプル演奏