バイオリン・モズライトの制作
2017年春から夏
全く新しい形のボディを、モズライトの部品を使い制作したくなりました。もう、いわゆる“モズライト“ではありませんが、モズライトのDNAを受け継いでいます。ボディ以外は全部”モズライト”ですから。ただし、部品の内ビビュラミュート・アームとローラー・ブリッジだけはUSAで、ネックやマイク等はジャパン・モズライトのものです。
モズライトの音を決めている要素はたくさん考えられます。このうち、ネックとボディの木製部品は決定的です。確実に音に影響します。一方、マイクは磁界を形成するポールピースの形状や磁界を弦に与えるネジの形状(後述)は重要ですが、コイル自体の巻き数については、インピーダンスを通してアンプとのマッチングだけが変わるので、現在、アンプの初段が真空管からトランジスタに変わったので、あまり影響はないです。トランジスタも初段は高インピーダンスのFETでしょうから、巻き数の影響は原理的にありませんし、従って、高音域の劣化はありません。出力は巻き数に比例しますから、巻き数が多いほど高出力になり、昔の真空管アンプでは歪み成分が増え、独特の迫力になります。それより、磁石から弦に磁界を受け渡すネジの頭の形は、磁界の形を決定するので、これが均一な磁界でなくなり、これも歪み味のダシとなるので大変重要です。クリーンな音を好まれる演奏者はバータイプの時期ターミナルのものを付けるべきです。フェンダー・ギターのテレキャスターのリア・マイクはモズライトタイプですね。ちなみにフロント・マイクは逆にぴかぴかのメタルケースに入っており、このマイクはクリーンに弦の振動を拾います。 
 
 さて、ベンチャーズの音楽をやるのに、モズライトを使わなければいけないかというと、実は、ノーキーの使用するギターがモズライトからテレキャスターに変わっても、あまりパフォーマンス的には変わりません、ノーキーが弾けばノーキー節になり、いわゆるベンチャーズになるのです。一時、ノーキーもいろいろなギターに食指を伸ばし、スーパーセッションで使っていた“ハント“という小ぶりなボディのギターはいい音でした。
 ノーキーが一人でもベンチャーズになると言うことを、あるとき気がついた経験があります。たしか、90年代後半の代々木のABCホールでの演奏会でした。バックは日本人でしたが、ノーキーが”ダイアモンズ”を弾き始めた瞬間、滅多には演奏されないために反って耳に新鮮だったことが幸いして、メロディーの中に、紛う方なき”ベンチャーズ”のテイストを感じたものです。ですから、要は弾き方なのですね。もちろんこのときノーキーはモズライトのノーキー・モデルを弾いていましたから、往年のベンチャーズに近かったのでしょうが、言うまでもなくプロであるノーキーはオールドのビンテージ・モズライトなどは使いません。全てのパーツが故障しないリイシューの新品モズライトです。これは、一定以上の確実な演奏を提供するためには重要なことで、プロというものはそういうものです。音より事故なく演奏会を終えることを最重要に考えます。一節に依れば、ノーキー・モデルは日本のトーカイ製だと言うことです。さらに、付け加えるならば、ノーキーがベンチャーズの旧メンバーとやるときには、逆にモズライトは決して使いませんでした。テレキャスターか”ヒッチ・ハイカー”というギターで、テレキャスターはともかく、これはマイクがセイ・モア・ダンカンのダブル・コイル、ハムバッキングです。低音が豊かで綺麗な音が出る優秀なマイクですが、往年のモズライトサウンドからは遠く離れた音です。しかし、パフォーマンスは最高なものですね。70年代から、すでにサウンドはリバティ・レコードに入っている音ではありません。ファズもライブでは使用しませんし。あの、10番街の殺人やダイヤモンド・ヘッドの音はレコード以外は、ベンチャーズ自身でも出せなかった、というより、ライブというのは「ほら、本当に、こういう風にひいていますよ」という様を見せるステージです。特に、WDR64のぴちぴち音は2度と聴けませんでしたね。ドンが使っているギターもアンプも、当時の措置ではなかったからですが、これは本人なのに変ですよねえ。弾き方も同じはずなのに。まあ、レコードの音は、それ自体が芸術作品で、ライブで再現する必要はないのですね。
いきなり、完成後の写真です。デザインは私のオリジナルで、世界に一つしかないギターの完成です。
ボリュームやセレクト・スイッチ、出力ターミナルなど電気配線系統は一カ所にまとめられていて、配線も短く、シールド処理もしてあるので、ノイズレスが合理的にはかられました。 
 ピックガードはなく、3点止めのシンプルな白のアクリル製のカバー(3mm)がステンレス製の木ねじで取り付けられていて、これは、モズライト63式のサイド・ジャックよりシンプルな構造です。バインディングは当初からの予定でしたが、これは付けなくても良かったです。塗装した後の印象ではビスケットのような可愛らしさと煎餅のような渋さを併せ持っていたので、そのままでも良かったのですが、結局付けてしまいました。 

 バイオリンの形をしたギターは、実は昔、高校生の頃作っています。その時はお金がなかったので、ほんとうのバイオリンのような空洞を持つ胴体を3mmのベニアで作りました。マイクは単体で売っているソリッドギター用のシングルコイルのものでした。このギターの最大の問題点は、容易に想像つくかとは思いますが、ギターを座って弾くときに、太股に尖った部分が当たり痛いことでした。圧倒的に座って弾くことが多い、現在の私は、当然この点に考慮は至りましたが、迷いはなく、デザインを優先しました。座って弾くときは革製の肩当てパッドを下に敷いて弾きます。このデザインは、立って弾く分には問題ありません。

 なぜ、バイオリンの形状を選んだのかという理由ですが、そもそもは初めは小さな形状のボディだったら、一体どういう音になるかという好奇心からでした。
 
 昔話になりますが、高校生の頃、1学年後輩のエレキバンドのリードギタリストが、当時まだエレキギターを持っているものは少なくクラシック・ギターでパイプラインなどを引いていた時代でしたが、テスコだかグヤトーンだか判りませんが、そのエレキギターのボディを必要最小限のサイズまで切り詰めてしまい、真っ黒く塗りつぶしたものを、バンドメンバーを従い、教室での発表会で弾いていました。その音ですが、ベンチャーズを弾くにはぴったりのバリバリに歪んだ、高音がギラギラする派手な音になっており、衝撃を受けたものです。その記憶は永いこと心の奥底でミイラのようにずーっと眠っていたのですが、最近、突然目覚めました。たまたま、Ed.Elliott.氏のフェイスブック上に下の写真にあるような、モズライトの部品使いながら、ボディ形状が鳥の形をした作品を紹介していまして、それを作ってみようかと思った瞬間、その記憶がよみがえってきたのです。そういえば、テレキャスターは、ストラトキャスターを切り詰めたような形状ですよね。青空に突き抜けんばかりの高音と、歯切れのいい硬質の低音の気持ちのいい音なのです。まさに、カントリー・ギターには欠かせない音色ですね。どっしりとした低音豊かなモズライトのテレキャスター版ができはしまいか、夢は急速に広がりました。
Ed Elliott氏のデザインになる白い鳩が飛んでいるスタイルのギター。
 ネック・ヘッドの形状、傾きが逆なことに気がつかれますか?
これは、かなり心がそそられたのですが、これを作るために、写真から拡大して型紙に起こす自在定規を作成している段階で、面倒になり、独自のバイオリン型に、心変わりしていきました。手慰みに絵を描いている内に、バイオリン型がなかなかいいではないか、と思い始めたのです。
新聞紙で型紙を2枚作りまして、右の方を採用しました。真ん中の紙に下書きがありますが、これを眺めているうちに、だんだん心がバイオリン型に傾いていったのです。左右対称になるように二つに折り、重ねて切って開いたものです。Ed Elliott氏のデザインは上下対称性が破れていることが、どうにも許せなくなっていきました。翼と尾の部分、および頭部のもたらす共鳴振動数には、大いに心引かれたのですが。

 モズライトやストラトキャスターが持つボディに出来たカッタウェイの結果の”角”には、中低音に固有の振動数を共鳴音としてもたらす効果があります。今回は、それらを切り落としたら、どんな音になるのかという実験の目的がありましたから、まるっこいバイオリンにこそ、目的にかなったことなのです。それでも、ちょっぴり、尖った角はあります、これが、いったいどんな音を作り出すのか、大いに興味がありました。完成したあとの感想ですが、オリジナルの形状に比べて中高音域に独特のいい感じのギラつきがあります。
モズライトの音
順序が前後しますが、上の写真の右が、仕上がったボディの加工前の姿です。、左は、これをセミアコに加工した後、厚みも考慮して、後ろからふさぐ高級シナ材の4mm板です。これは、前回のセミアコ・モズライトで使った余りで出来ました。主ボディ材は厚さ38mmのスプルース(ピアノの響板としても使われる檜に似た白い針葉樹の建築材)。前の家で天井裏に上がるはしごを作った残りの端材を貼り足して、3ピースで幅を満たしました。節目のないいいところがちょうど残っていました。変な形に見えますが、真ん中は先にカットしてあり、両側ははしごの踏み板を縦に真っ二つに切ったものです。シナ材を重ねて厚さ42mm、ちょうどモズライトと同じぐらいの厚さとなります。次の写真が,、その結合の様子の写真。
同じ厚さの建築端材を木工ボンドで接着。なるべく堅固に付くように、ハタガネと言う治具で締め付けて、1日ほど待ちます。このハタガネは昔、スピーカー造りに凝った頃そろえたもので、また、役に立ちました。
ジグソーの後は電動トリマーで周囲の垂直だしをします。最後は表面のカーブもトリマーで段階的に表面を浅く削り、最後はディスクグラインダーに塗料剥がしを取り付けて、なめらかなカーブに仕上げていきます。これらの作業で一番時間が掛かるのは電動トリマーの行程ですが、同時に、一番削りくずが出て飛び散り、後の始末が大変なのもこの道具による作業です。でも、この電動工具のおかげで、鑿などの旧来の刃物で作業するよりも遙かに安全で正確な加工が可能となりました。これがなかったら、出来上がりは格段に手作り感の漂う不細工なものができあがったことでしょう。ちなみに、フロントマイクからの信号線は後ろから溝を掘らないと無理で、それを隠す意味でも、セミアコ加工は必然です。今回は、前回のセミアコより正確で綺麗な仕上がりとなりました。鑿は怪我するしね。
さて、途中が飛んでいますが、完成後、次の記念写真を撮りました。まずは、我が家のバイオリン型ベースとのツーショットですが、ご覧のようにベースよりボディが大きいのですから、低音については心配要りませんね。右は、以前作ったセミアコ・モズライトとのツーショットです。やはり、右のオリジナル・デザインは低音が豊かに鳴ることがこの比較写真からも推察できますね。実際のアンプからの音出しでも、そのことは確認されました。、
さて、次の写真が部品供給元のモズライト・ボディ。このギターは、ウレタン塗装でメタリックなだけに厚く、それがために響きが殺されていて、いまいち抜けの悪い音でした。ギターはラッカー塗装が最善で、本当は塗装しない方がいいのですが、湿気を吸収したり汚れが付くのを嫌って塗装するのです。だから、オイルフィニッシュでもいいのですが、これまた、素材の生な外観が出過ぎて、裸で町中を歩くようなものですから、最小限の薄物を着て出来上がりとします。前回より薄いラッカー塗装です。

 じつは、最初、サンバーストにするつもりではなく、ナチュラル仕上げのつもりでライト・オークで一様な薄化粧で済ます予定でしたが、なんだか、昔作ったベニアのギターを彷彿としてしまうので、結局、またしてものサンバーストになった次第。ですから、前回使った周辺部の色はブラックではなくマホガニーのステインの厚塗りです。黒く見えるかも知れませんが、よく見ると褐色です。バイオリン・ベースのサンバーストと一緒ですね。
いきなり記念写真になり、途中のセミアコ加工や塗装時の工夫などの写真はないのです。実は撮ったのですが、カメラからの転送時に原因不明の事故で消えてしまいました。私はカメラ付属の取り込みソフトは勝手にアルバム等を作るので使わず、エクスプローラ上で、カメラのUSBドライブから直接パソコンのフォルダにドラッグ・アンド・ドロップで転送しているのですが、これが最近、原因不明のデータが飛んでしまう事故が3度ほど起こりました。ですから、痛い目に遭ったのでカメラのデータを守るために“コピー“で取り込むようにしていたのですが、魔が差して“転送“を押してしてしまったのです。データ復活ソフトの“ファイルデータ“というオンラインソフト(6800円)を使っても、どこに消えたかとうとう復活しませんでした。
ところで、見つかりました、私が50年以上前に作った、ベニヤ板製のバイオリンギター。なんと、驚くことにボリュームの部分のカバーはほとんど同じ形状、50年たっても、私の心は永遠に不滅だったのです。それに反して、50年間の私のクラフト力の違い。試しにアンプにつないでみましたが、完全に死んじゃっていました。音が出ません。これで音が出たら、大感激、めでたしめでたしのところが、そう、世の中、甘くはありませんでした。今あるギターも50年たったら、音が出なくなるんだろうか。急に、普段弾いていないギター達が可哀想になりました。そのうちに配線を点検して、可能なら復活させ、弾いてあげよう。

 引っ越しの時にも捨てがたく、ずーっと屋根裏などに置いていたものです。なんとなく、いや、その当時からモズライトを意識しつつも、バイオリン型に執着していたことが判明しました。生まれるべくして、生まれる運命だったのです。じいちゃんと孫みたいなツーショット。じいちゃん、マイクの間隔広いね。
半世紀以上前のベニアギター発見!
どんな音が出るのか、そのうちに発表しますね。
モズライトのマイクは独特です。6個のネジが頭を出していますね。高さを調節して、各弦の音量が加減できるようになっています。このようなマイクは、他のギターのマイクにはない、独特のものです。大概は横一列、もしくは2列のバータイプの金属磁性体が露出している形で、原則的にはコイルの芯となっている部分が磁石であるか磁石の上に乗った磁性体ですが、要は弦の周りに磁界を作るためのものがあればいいのです。これが、モズライトの場合は頭の形が丸いドーム状になっていますから、そこから出る磁界も、放射状に磁力線が出ます。弦の距離が遠ければ隣同士の磁界が重なり合って、比較的平坦な磁界になりますが、近いと、距離の2乗に反比例するような放射状の磁力線の中を弦が振動することになります。これが、一様な磁界中の運動ではないので、独特の濁りを音に加える結果となるのです。ボディの形状や堅さからくる共鳴振動数と相まって、モズライトの音を他に類のない音にしていると、私は思っています。ですから、マイクをUSAだろうがジャパンだろうが、形状が同じなら同じ音が出るものだと考えているのです。音の違いはボディとネックです。これも、同じ材質を使い、同じように作れば、形からくる共鳴振動数のピークやディップが同じなので、同じ音になってしかるべきです。ボディの形状が変われば、もう、決定的に共鳴振動数のピークの位置が変わりますから、音色は変わるはずです。
 本物信仰というのは、ものを味わう上では重要で、これは私も否定しません。美味しいと思うから美味しいのであって、不味いはずだと思ったら、もう料理を楽しめません。音楽も料理の心理と同じです。
バイオリン・モズライトによる演奏サンプル
バックは以前と同じベンチャーズの演奏からJS-10によるカラオケです。
演奏曲目

 以前と違う曲をやってみます。(更新6月28日)

1.輝く星座* 2.スリープウォーク* 3.エルクンバンチェロ* 4.パイプライン* 5.十番街の殺人* 
 7.京都の恋  8.雨の御堂筋  9.長崎慕情  10.名古屋特急
11.ナッティ*  12.パラダイス・ア・ゴー・ゴー 13.さすらいのギター  14.ブルー・スター
15.シーズ・ノット・ゼア  16.黒い瞳  17.バード・ロッカーズ  
19.あの娘のスタイル 20.ライズ 21.ロンリーガール 22.フィーヴァー 23.若さでゴーゴー.
25.青い渚をぶっ飛ばせ 26.レッツ・ゴー(スタジオ録音盤) 27.逃亡者

※相変わらず不完全な演奏で済みません。精一杯です。

*印はアメリカ・シアトルでのlive録音盤で、無印はスタジオ録音盤のカラオケ化、それぞれJS-10のエフェクタで極力音を似せています。多少の化粧を施さないといけません。料理もダシと味を付けないと食えたものじゃないですからね。ただ、素材の特徴はアタック音やサスティーンに感じ取れますよ。ストラトに対してテレキャスターのような独特の太くて重いアタック音。前回のセミアコ化したモズライトでは「ポアンとした柔らかく温かみのある音」でしたが、このボディ形状の特徴でしょうか、このバイオリン・ギターは明るい音ですが、堅く引き締まった音に聴こえます。ノーキーの“アゲイン“のナンバーを弾きたくなります。

(更新6月29日)

18.パン・ハンドル・ラグ  24.テルスター* 6.ナイトトレイン 

音がどう違うのか判るように、以前、弾いたのと同じ曲(アメリカ・ライブ盤)もやってみますね。

28.アウト・オブ・リミッツ* 29.マイ・ボニー・ライズ* 30.ハワイ・ファイヴ・オー* 31.レッツゴー*
32.朝日の当たる家* 33.夜空の星* 34.秘密諜報員* 35.Mr..Moto(ヤクルト・ホール版) 


 微妙に構えたときのピッキング・ポジションがモズライトと違うので、慣れた曲が初めて弾くかのようです


付録  スプートニクス
セレクタ・スイッチでフロントのマイクとリア・マイクが足されると、音を拾う位置の関係で中音域あたりで逆相つながり、いわゆるハーフ・トーンになるので、これの使い道でもっともマッチするのがスプートニクスの音楽でした。JS-10のエフェクタでボー・ワインバーグの造り上げたかの有名な“スプートニクス・サウンドを再現します。このギターより、前のセミアコ・モズライトの方がこのサウンドに向いているのですが、敢えて、これで弾いてみます。乞うご期待
演奏曲目
1.トランボーネ  2.ジャニー・ギター 3.スペースパーティ  4.夢見るギター  5.軌道上の物体
6.ハッピーギター  7.古い時計 8.突き抜けた物体 9.空の終列車 10.ジュピター・スペシャル

追加 Nokie Edwards
 
ソロ・アルバムから 
1.ストーミー・ナイツ (Again Nokie)  2.ナオミの夢  (栄光のギタリスト)


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左はシナ合板4mm厚の裏蓋です。