マトリックスTQWT
平井則行   2017.11.23
マトリックス・スピーカーの新しい形を発表します。
 オーディオ評論家の故長岡鉄雄氏が好きだったこの疑似サラウンド・システムのは低音が原理上出にくいという欠点をもっていました。本スピーカーはそれをTQWTというもので解決しています。さらにプロトタイプでは4本の16Ωという、あまり売っていないスピーカーを4本使うものでしたが、これも2本で済まし、低音用のウーファー1本でマトリックス音場を構成します。

  さっそく、詳細に移りましょう。

ところで、手っ取り早くこの要旨を知りたい方は、一番下の試聴記事へ飛んで下さい。途中の解説記事はオーディオ・マニヤックで専門的な用語も飛び出し、かつ物理的な知識と想像力を必要とし、退屈しない代わりに、頭の疲れる七面倒くさい話ばかりですから。
理論好きの方なら、注意深く、次のパラグラムからどうぞ。

1.まえおき

 この方式を長岡鉄雄が発表したときのプロトタイプは16Ωの10cmスピーカーを4つ使い、5角形の小型の箱に取り付けたもので、同様のシステムを作ったファンはいっぱいいたことでしょう。ネット検索でもこのような画像が見つかります。左のものがファンの制作された中でもなかなか綺麗なものでしょう。このようなものがプロトタイプで、長岡氏ご自慢のマトリックス・スピーカーMX−1です。驚異のシステム、マトリックス・スピーカーの誕生でした。
これは、中央の二つが上の配線図の両サイドに当たる、残響を多く含んだ左右のチャンネルからの差信号を再生するもので、写真の縦に並んだ二つのスピーカーがここから出ます。ステレオのRL両チャンネルはサイドにあるスピーカーで、この左右スピーカーと真ん中の二つの差信号のスピーカーからでる音がちょうど磁石の作る磁界のようにアーチを描き、一つの筺ながらステレオ音場を造り上げます。スピーカーからでる信号のプラスが磁極のN極、マイナスがS極に相当するわけで、音場ベクトルが左右に対称的に出来上がり、膨らんだ音場ベクトルにより、筺の外、離れたところから音が聴こえる仕掛けです。もう約35年ほど前になりますが、実は、もっといい方法を思いつき、普通の8Ωスピーカー二つだけ使って、もっといいものが出来ないかという発想で、同じ効果を示すシステムを考案したものです。このマトリックススピーカーは特許を取ったそうですが、いまは解放されています。私の方法も特許はとれたかも知れませんが、特許というものは所詮販売して利益を上げるシステムですから、特許料の方が高かったのではないかと思いますね。

 さて、その私の方法とは極めて簡単、どうやるかというと、差信号スピーカーのマイナス側を一点に繋ぎ、そこから抵抗8Ωを使ってアンプのマイナスに落とすのです。こうすると、右はR-αL、左はL-αRとなり、左右のスピーカーの間に音場ベクトルがプロトタイプと同様のものが出来ることになります。試作品は成功し、スピーカーの筺から遠く離れた突拍子も無いところから音が聴こえてきて、嬉しくなったものです。特に、高音域の音が広がり、興味深かったです。

 今回、私が考案した新しいマトリックス・システムは、上の試作器を発展させたもので、純抵抗を1個の8Ωインピーダンスのスピーカーで置き換えたものです。こうすると、アンプのマイナスへ落とす経路にR+Lの音を出すスピーカーが1個存在することになります。これは左右の8Ωスピーカーを通ってきた信号ですから、厳密に言うとα(R+L)で、左側では(L-αR)+α(R+L)=L(1+α)、右側では(R-αL)+α(R+L)=R(1+α)となって、音圧ベクトルのくる方角に、ステレオ音源が合成され、誕生します。ですから、正確に言うと、発展形と言うより完成形なのです。しかも、低音増強のためのウーファーはちょっと下に付いていますから、音像は上下左右に広がるという、不思議な感覚も生まれます。通常のステレオは左右の広がりだけで、あとは人間が脳内で補填した音場になるのですが、私のシステムではかなり立体的な音場が作られて、極めて不思議な音体験になります。この辺りは図を書いた方がいいのですが、回路図と共に後回しになることをお許し下さい。

 約35年前に私が作った方式ではR-αLとL-αRでしたから、逆相成分があるお陰で音圧ベクトルが左右に磁界のようなループを形成し、奇妙なステレオ体感をもたらしました。これはこれで面白かったのですが、なにしろ逆相成分が一部はいるので波長の短い低音域は打ち消され、全体としてはかなり低音不足になります。本家長岡方式も低音不足に悩まされまして、下に大きな低音増強のバスレフ箱やバックロードホーン着けたりしましたが、元々が逆相信号も同居していましたから、何を着けようと、打ち消されてしまったものが下のバスレフ箱やホーンに回ってきたのですから、プロトタイプではあまり低音増強は期待できませんでした。私の方式は全然違います。R+Lだけ独立させ内部では打ち消しがありません。従って、従来の方式よりかなり低音が出ます。
 私の最初のタイプは低音不足が原因でボリュームを上げないと迫力が出ませんでした。そのため、アンプにもスピーカーにも負担が行きました。今回の方式でそれが完全に解決したのです。

 当時使ったアンプはサンスイ自慢のダイアモンド差動回路というドライバー段を持つ出力アンプのAU-D607DECADEでしたので、このスピーカーシステムとは相性が悪かったらしく、不安定な動作をしてアンプが壊れてしまいました。温かく力のあるアンプでしたが残念でした。低音不足とアンプが壊れたことも相まって、その後、マトリックススピーカーから関心は離れて行き、もっぱらバックロード・ホーンばかり作るようになり、月日は流れました。昨日までは、バックロード・オンリーのオーディオ・ライフでした。
 
 スピーカーボックスには密閉とバスレフというのがポピュラーな方式で、メーカー製のスピーカーと言えば、この二つの方式がほとんどです。バックロード方式はJBLなどが大型な4520とかがありますが、かなり高額な製品(250万円)です。バックロードホーンは、長いホーンロードを掛け、良く設計されたものでは、パンチ力のある迫力満点の音なので、蒸気機関車の音や大太鼓、花火等の生録再生に極めて良好な適合を示しました。アルテックA7等のフロント・ホーン方式も、生々しい原音再生が得意で、ドラムソロ等を聴くと、音量も含め、非常にリアルな音です。バックロード・ホーンは70年代が全盛期で、フォステックスやコーラル、ビクターなどが製品化していましたが、若干奇抜な形なので一部のマニアだけが真価を理解して買ったり自作したりしていました。このとき使われたユニットはフォステックスのFEシリーズやFPシリーズで、現在(2017年)でも、その進化型が使われており、単体ユニットとしても結構高級品となり、下手なスピーカーボックスより遙かに高く、音もかなりハイレベルです。ちなみに、フォステックス・スピーカーは一般的には知られていませんが、カーステレオやミニコンポなどのスピーカーのユニットとして、意外と身の回りに多いです。
2.まずは完成した姿 

今回試作したものは、ウーファーとして16cmを使い、メインは10cmのテクニックス10F11ですので、かなりコンパクトなスピーカーと言えます。完成した写真をまず見てもらいます。
この目の大きなフクロウのような黒い箱のものがマトリックスTQWTです。全くオリジナルな方式で、昔作った低音が出ない試作品の8Ω純抵抗の代わりに、8Ωのウーファーで二つのスピーカーをまとめて接地します。配線図は省略しますが、RLスピーカーの端子のプラス側はアンプのそれぞれのプラスに繋ぎ、両スピーカーのマイナス端子をまとめて、ウーファーのプラス側に繋ぎ、ウーファーを通してアンプのマイナスに繋ぎます。非常に単純ですから、図を書くまでもないでしょう。

 下図のように、低音用のボックスの上に独立したメインのマトリックス筺を載せ、スピーカー・コネクターをすぐ後ろに配置しました。アンプへのマイナス配線は1本だけで、もう1本は遊んでいます。
現在使用しているアンプはSONYのFETアンプTA-555ESで、BTLやバランス型の出力では有りませんから、マイナス側をまとめても全く問題ありませんので、マイナス側は共通にしています。
 ちなみに背後にはパイオニアのマルチチャンネル・デバイダとビクターのグラフィック・イコライザーとこれまたパイオニアの高音用・中音用のためのインテグレート・アンプが見えています。
3.製作編

このスピーカーはJIS規格コンパネ900×1800×12mm1枚で作れます。少し余りが出るくらいコンパクトです。

 設計図と板取り図は現在用意していませんので、途中の写真でご勘弁を
このように直線切りは30×30のスチール・アングルをあてがいクランプで止め、切り口の正確さを期します。この切り口がTQWTのラビリンスを構成しますので、きっちり綺麗に切らないといけません。バックロード・ホーンほど密閉はうるさくないものの、切り口の直線性と垂直性は重要です。電動工具は必須ですね。
 
 ちなみに、JIS規格ではない12mmの合板には、針葉樹合板とポプラ合板がありますが、このコンパネ合板が一番丈夫で堅く、重いです。スピーカー用としては、コンパ部合板は最適だと思っています。シナ合板は高級品ですが、そこまでは全く必要ありません。ニスの家具調仕上げをするわけではないのですから。

 切断作業中。この合板切断は大いに埃が出ますので、屋外でやりますが、この日は雨模様でしたので、屋根があるガレージの上でやりました。いままではコンクリートが打ってある裏庭の通路でやっていたのですが、最近庭の樹木が生長してきましたので、いっそのこと、そこから階段上がって運び上げた方が広いので作業自体は楽でした。これからは、板切りはここでやろうと思いました。

 ただし、大工仕事は近所迷惑になるものです。この場所は屋根以外遮るものがないので、切断のための電動のこぎりは手早く済ませ、組み立てはガレージの中でやります。うるさくて、ごめんなさい。滅多にしませんから。ご近所の方、許して下さい。
 市街化調整区域なので、一軒一軒は少し離れているのですが。それぞれの家の庭木も少しは音を吸収してくれると期待しながら。(ノ_ _)ノ 
 
つぎに、ラビリンス(迷路)の仕切り板の切断。これは多少長さは適当でもかまいません。ただし、直角は厳密に。もちろん設計図通りには切りますが。下に見えているのが、もう少し細いものの直角切りをするときの治具(補助具)で、25mmのアングルを溶接して自作したものです。特に、今回は必要ありませんが、角材の切断には威力を発揮します。なかなか直角切りというのは目見当では難しいのです。
次に、ラビリンスを組み込んでほぼ完成の写真。
このようにラビリンスを作ります。手順は、内部のラビリンスを中心部から釘打ちし、徐々に外側に向け作っていきます。内側の仕切り板が出来たら、側板に打ち付けますが、最初は斜め釘で借り止めして、ひっくり返して、横から目見当で釘を打ちます。この辺が、経験と技術の要りようなところで、釘が外れると、醜いことになります。

 それと、ラビリンスを正確につくり、側板に打ち付けるときに隙間が出来ないようにするのが今回の一番重要な工作上のポイントでしょう。最後に一番外側の周囲を打ち付けて、完成。釘はフロア釘という一打ったらまず抜けないらせん状の溝が付いている釘です。普通の釘でもかまいませんが、どういうわけか、私はいつもこれです。この釘は、まっすぐ打たないと簡単に曲がるので、慎重に打ちます。曲がった釘をハンマーで直し直し打っても、何回もやると折れてしまいますので、短気は禁物。
 木工用ボンドは少しはみ出すように塗り、指でなぞって密着度と密閉度をはかります。

 低音はこの写真の下側にあいた隙間から出ていきますが、ドライブ・スピーカーはラビリンスのほぼ中間(中心より4:5)に取り付けます。この迷路の幅が、中心に行くほど狭くなっているところがTQWT(Tapered Quarter Wave Tube)のミソというか醤油というわけで共振周波数に幅をつけます。
 そもそもTQWTの原理は1/4波長の開放端気柱共鳴を利用して、筺全体を共鳴管としてフルに利用し低音増強に使うもので、だんだん広くなるので、一見、バックロード・ホーンに似ていますが、エキスポネンシャルに広がっていくわけではなく、直線的に広くなっていくのです。ですから、幅の広がり方は、ほぼ一定の割合で広がればいいのですが、ここでは、適当にやっています。スピーカーを取り付ける位置は、スピーカーのマグネットがぶつからない位置にしています。理論的には、開放端気柱共鳴の奇数高調波が打ち消されるような場所というわけですが、折り曲げ管なだけに、適当です。でも、結果オーライで、耳障りな奇数高調波は全然出ていないようです。それと、このTQWT方式の共鳴管折り曲げ方式は、一番長い経路の途中にいっぱい折り曲げ場所があり、その節の部分共鳴が重なり合いますので、結構なめらかなレゾナンスが起こり、耳で聴いた限り、バックロードホーンよりピークもディップも聴こえません。おまけに、吸音材はいっさい入れていないのに、非常にブロードな共鳴が起こっているようです。


 この方式の原理のいちばん解りやすいたとえはオカリナです。オカリナは小さいのでかわいらしいポーポーという音ですが、このTQWTは大きいので30Hz〜60Hzの超低音域での共鳴音になります。この辺りの低周波は音と言うより気配といった方がふさわしい”音”です。

 
ネットで検索すると、最近の製作例が出ていますが、そのTQWTは1回折曲げの共鳴管なので共鳴が単純なので、欠点が目立っているようです。製作後の試聴記を読むと、なかにはひどい報告もあり、ちょっと心配したのですが、私が今回作ったこの多数回折曲げのラビリンス型では、製作は遙かにむずかしく手間も掛かるのですが、欠点が解消され、音は最高のようです。
5.製作後の試聴編

 最初の組み合わせでは、この低音部の初めて作るTQWT単体の性能を知りたくてテクニクスのEAS-16F10というフルレンジ・スピーカーを取り付け、モノラルで聴いてみました。このスピーカーもメインの同じテクニクスのフルレンジEAS-10F10と同様、約40年前に購入したビンテージ・スピーカーで、コーン紙からエッジまで変色、一見埃付きのおんぼろスピーカーです。しかし、外見はおんぼろでも、出る音には関係ありません。スピーカーほど見かけによらないものも、他にあまりないでしょう。TQWTに取り付け、とりあえず単体でどう鳴るかを聴いてみまたかったのです 結果は素晴らしいものでした。バックロード・ホーンをやめて、これからはTQWTにしようと思いました。

 作ったスピーカーを初めて鳴らす時というのは、恋の始まりのようなものです。特に初めてのタイプの箱では期待と夢で胸が膨らみます。まず、ちゃんと音が出るかというのも、知り合い始めた恋人のようです。恐る恐るボリュームを上げていくと、「なんと!普通に鳴るぞ!」から始まります。次に、問題の超低音はどうか。これが一番の関心事、「う〜ん、設計通りの30Hzまで伸びた超低音が出ているようだな」。これは、期待感を込めた感想なので、主観に過ぎません。客観的に測定しないと断定できませんが、たしかに、いままでのバックロードホーンやバスレフの音とも違うことは、はっきり解ります。何というか、威勢のいい低音豊かというボンボンではありません。すっきりとした、素性のいい、まともな感じ。ある低域を持ち上げて、そこから先はすとんと落ちているような、メーカー製品に多く見られる商品としての低音と違う、本物感があります。
 ”要所要所に吸音材を入れないと、まともな音にならない”というネットの記事は、結局、失敗作が出来てしまったときの事後処理みたいな記事なのかなと。干渉によるひどいピークやディップは大いに心配だったのですが、まったく、あっけにとられるほどないのです。綺麗な音だというのがファーストインプレッションでした。

 安心して、いよいよマトリックス主要部のヘッド部分の結線に替え、マトリックス・システムとして聴くことにしました。配線を直すのは簡単で、アンプからのRLコードを普通に差し込むだけ。マトリックス結線にしボリュームを上げる。
 あれ!、以前作ったもののようなステレオ感がない。すぐに気がつきました、低音ユニットからのR+Lが高いレベルで出ていて、これがモノラルっぽくしているのです。やはり、計画通り、ステレオ感をもたらす中高音が出ないウーファーにしないといけないようです。ここに取り付ける予定のウーファーはFW168HS16cmコーン形ウーハーユニットで、これまた古いのですが、どういうわけか1個しかなかったのですが、予定調和的にうまく行きました。これに変えたら、俄然、モノラル感は消え、良くなったのであります。長岡鉄雄風にいうと、俄然、広がりが出てきて効果絶大、猫もおどろく大変な変わりようです。

 それ以上は、夜も更けてきたので、音を絞り、ベンチャーズの50周年記念ライブCDを掛けて「いいねえ!いいねえ!」と聴いている内に、昼間の疲れが出てきて、いつの間にか眠っていました。この日の午前中は大雄山最乗寺の紅葉を見に行ってきたのです。眠っている最中も、包み込むような音の温泉に浸かり、脳内麻薬を点滴のように流し続け、気持ちよく目が覚めたときはラスト・ツーのダイアモンド・ヘッドとパイプラインのメドレーでした。それからラストのアンコール曲”キャラバン”が始まるわけですが、翌日の楽しみに取っておくことにして、アンプを切り、長い1日を終了しました。まあ、眠れるほどいい音だと言うことで、いいスピーカーシステムが出来た、という状況証拠を提出できたのかな。
…それにしても、EAS-10F10がこんな風に綺麗に鳴ったのは初めてではないかな…(終わり)
 
 蛇足)翌日、いろいろなCDをかけて試聴したのですが、一番ショックだったのは、演奏がつまらないと評価していた「V-GOLD」が素晴らしい音で鳴ったことです。CDに閉じ込められていた音のピクシーたちが魔法を掛けられて、生き生きとして次々飛び出し、スピーカーの周りを飛び始めました!こんなに素晴らしい演奏だったのか!と改めて、これら金色の箱に入ったV−GOLDシリーズを見直しました。この分だと他のCDも生まれ変わるに違いないです!
 期待に夢膨らみ始め、新たなオーディオライフの始まりを予感したものです。

 控えめに言っても、マトリックスTQWTシステムはまともなピュアオーディオと違う世界を造り上げたことは間違いありません。二つの離れておかれたステレオ・システムとは全く違う音場システムです。音が部屋いっぱいに広がった幻覚が生じます。太陽表面のN磁極黒点からS磁極黒点へアーチ上に膨れあがるプロミネンスのように、音圧ベクトルの作るアークの中に頭を突っ込んでいるようなものだからです。ヘッドフォンで聴いているようでもあります。近所迷惑にならない鑑賞法といったら誇大広告みたいで気が引けますが、その証拠に、他の大型システムで聴くと、主観的な同じ音圧レベルでは部屋の壁が低音で振動し、下にいる家内に「よくあんなひどい音で聴いているわね」と言われますが、分析するに、一つには、この外に漏れたノイズを称して「ひどい音」という酷評になるのでしょう。その証拠に、女房が部屋に入ってくると「あら!こんなに綺麗な音だったの!」といいます。
 話を戻すと、このシステムで生じる丸く閉じた音場は、相当大きな音に感じても壁や家具にあまり広がらないので、余計なものがびりびり鳴りません。実際、オーディオルーム内に置いてある物の、この共鳴によるノイズは音を汚す代表格で、アンプやスピーカーの物理的な歪みより桁違いに大きなものです。装置に金を掛ける前に環境ノイズに配慮した方が賢いと思われます。このノイズ問題は、オーディオに限らず、人生、趣味や活動のすべての場面で生じ、諍いの根本になっている気がします。


おまけ)本日、facebookへのアップロードと編集を完了し、一息ついて、このスピーカーでベンチャーズ・エレキ大全集というのを聴こうとリクライニング・シートに身を沈めるやいなや、外のベランダから愛猫のくるみちゃんが入れてくれとガラス越しに鳴きます。部屋に入れてやったら始まった音にびっくりして、目がまん丸です。落ち着きが無くきょろきょろ辺りを見回し初め、ついに、十番街の殺人になったら、天井を見上げて、何かに襲われたかのようになり、部屋から逃げ出しました。音の妖精ピクシーですよ。


選択
1.マトリックスTQWT
2.マトリックスTQWTバックロード
3.Tマトリックス接続

メイン画面に戻る

4.メイン部の製作

マトリックス・スピーカーの主要部分は、35年前に試作したときより大きくしました。前回も同じスピーカー・ユニットでしたが、その時の反省を踏まえて、密閉方式の容積を大きくし、これ単独での最低共振周波数も大きめにとっています。 これが、筺の中ではRLが共通の空間で鳴ることになり、RLが互いに裏から押し合うので、一つのコーンについては右はRーαL,、左はL-αR(αは距離と周波数に依存する複雑な因子です。

 たとえば、距離は18cmとして、この長さに相当する音波の波長は34400cm(音速で1秒間走る距離)/18cm=1911(Hz)となりまして、やく1.9kHzです。しかし、この18cmというのは両スピーカーのおおよその距離ですから、コーン紙にも幅があり、重なり合いが出てきますので、実際にどうなるのでしょう。この半分の周波数は逆位相で重なり合い、このときの背圧がお互いのコーン紙を前に押し出すR+L信号となり、さらに半分の周波数では引き合う逆位相信号…といった具合に、訳がわかりません。ですから、これを避けるために、このヘッド内は吸音材で埋め尽くし、この干渉を消した方がいいのかも知れません。最初の試作品ですから、中には何も入れないで完成に向かいます。
 この写真では上になりますが、升のような部分はネックです。低音ボックスに取り付ける時、途中に何もないと、首無し人形のようになって不格好だと思っただけで、特に理論上必要なわけではありません。ただ、あまり長くても、また、ろくろっ首になり、ふたたび不格好でしょう。このぐらいが適当で、この升の途中に穴を開け、スピーカーコードを出すことにしたので、まあ、デザイン的には具合がよろしいかと。

 ハタガネ(クランプの長尺版)で締め付けて接着を釘なしで固定し、半日放置します。この後、四角い台座を取り付け完成です。コードのプラスマイナスはテスターで確認し赤と黒のテープで目印を付けておきます。プラスマイナスを間違えるとマトリックス動作がおかしくなるからです。

全部接着し終わったら、電動ヤスリで仕上げ、砥の粉を塗って塗装を待ちます。塗装は初めマホガニーのニス塗りを予定していましたが、コンプレッサーで吹き付けようと思ったら、目詰まりで塗料が飛ばず、戻す缶が無くて、黒のペイント缶が残り少なかったので、これに一度もどし、スプレーの目詰まりを掃除した後、黒と混ざったマホガニー色という色になりました。というわけで、最初の写真のようなものが出来上がったわけです。
低音部のTQWT 
これだけでもフルレンジを付ければシステムとして使えます。
部屋に置いてテスト中
この後、大幅にレイアウトを変えて、マトリックスTQWTを部屋の隅に設置しました。
 ついでに、アンプ類をソファーの真横に持ってきて、立ち上がらずに操作できるようにしました。いわゆる、コックピット化です。