MEADEのシュミット・カセグレン25cmの補正レンズは、落札した時点で保存状態が悪かったために表面のコーティングが劣化していて曇っていました。それでも、月などを観ると、さすが25cmの反射望遠鏡だという切れ味で、曇りさえ取れば素晴らしい望遠鏡になる可能性を感じました。
 これをマジックリンでクリーニングしましたが、不十分で、やはり、ピッチ研磨しないと表面の乱れを生じ、台無しになります。
 補正板の修正量というのは、見た目には平面にしか見えないほどのもので、最大くぼみは8.7μです。マジックリンによる清掃で、カーブが崩れてしまう危険がありました。その証拠に、試し研磨で大分カーブが狂ったようで、ピントの合う位置に幅が出来ました。表面を平滑にするために平面研磨用の仮ピッチ盤を急遽作り、補正板の両面を研磨したからです。ちょっと、負修正気味になりました。 しょうがない、やる気出すか! 吉田正太郎著になる「天文アマチュアのための反射望遠鏡光学入門」(誠文堂新光社版)などに紹介されている補正板のための専用ピッチ盤の図を拡大コピーし、丁度25.4cmとなるようにして、それを元にピッチ盤を製作します。

 コピーしたピッチ盤の型を丸く切った化粧コンパネにボール紙を使ってホットボンドで固定していきます。ピッチの厚さは8mmにしました。
シュミットカセグレン望遠鏡の補正板研磨
ピッチ盤の製作と研磨開始。ピッチの枠内への流し仕込みは難しく、ちょっと溢れてちびりましたが、目的は達成しました。それと、補正板の研磨補助器具は改良に改良を重ね、カセグレンのための孔は、結局、丸く加工した厚板ガラスを同じ高さで取り付けて、これは具合良く機能しました。これをやらないと、ピッチが孔の縁で引っかかり、ピッチも痛むしカーブも乱れます。

 昨日、ベニガラで研磨したら、粒が粗いようで、ガラス面に細かい孔ができてしまいましたので、本日、酸化セリウムで研磨し直しました。

 とりあえず、通算4時間ほど両面を正規ピッチ盤で研磨し、負修正状態からの脱却を試みました。望遠鏡に組み付け、風景でチェックしましたところ、光軸調整をしていない段階で、今までにないピントが出ましたので、一応、満足し、過修正になったか負修正のままかの検査を後日します。

添付:左が過修正になったものを元に戻すピッチ盤で、右がメインの補正板のカーブ作成ピッチ盤です。初めは、こちらを主として使います。







これは、ベニガラでの研磨の様子。

 シュウシュウという研磨音がするので、粒が粗いようです。次の日に、酸化セリウム(宝石研磨用:粒度12000番)で研磨したら、全然音がせず、良好なつや出し研磨となりました。 ベニガラより酸化セリウムの方が研磨速度が速いのに粒は遙かに細かいようです。研磨速度は3,4倍速いです。

添付:左の写真にあるように、赤外線ストーブでピッチが冷えて堅くならないようにします。そして、研磨面の温度が上がり、乾燥するので、時々、水を散布します。
 このように、経験を積むにつ、道具の用意の心配りが出来てきて、研磨技術と作業能率が格段に進歩しました。
 補正板の研磨は、パラボラ面の研磨より難しくデリケートなので、こういった技術の改良がそのうちに役立つと思いました。反射鏡研磨の方が遙かに楽です。





デルファイでプログラムした補正板のカーブ(相当誇張されています.
2000倍)実際には、一番深いところで研磨量が18μぐらいです。だから、目で見たぐらいではわかりませんが、それでも、このカーブが出来てくると、平面のときより水平に動かす抵抗が増えるのがわかりますので、研磨の進み具合が感覚的に把握できることがわかりました。最終的には、恒星の像のゾーンテストで外側と内側のゾーンのピントの移動量で検査します。研磨が適切だと、両者のピントが一致してシャープな像を結びます。
研磨の結果 第1回目

ベニガラで研磨したら、粒が粗かったと見えてあまりきれいな艶のある仕上がりにはなりませんでした。日に当てると、結構磨いたと思いましたが、うっすらと以前の劣化した反射防止コーティングがまだ残っております。しかし、一応組上げて補正量をチェックしようと思いました。
 
 ちょうど金星が最大離角に近く、西の空高くに見えていましたので、光軸を合わせ覗いてみました。段ボールで作ったゾーン・テスト版を使って調べると、修正量は悪くないのですが、各ゾーンのピントが同じように甘くて、ピントに幅があります。これは、一つには、表面の研磨状態が悪いのが原因と思われますが、不規則な研磨状態の恐れもあります。これではダメです。研磨のやり直し。
第2回目

 
ピッチ盤を作り直しました。もう一つの本に載っていたパターンです。

このように外側、中間、内側の3つのゾーンです。

 過修正か負修正かの判断だけなら、外側と内側だけでいいのですが、カーブが正確に計算通りに出来ているかどうかは中間も押さえないといけません。理想をいえば連続的にゾーンを動かして調べる必要があります。

 左は、各ゾーンを開けた状態で、実際には右のように一つだけ開けて観測し、各ゾーンでのピントの位置を調べます。
 左のように、ボール紙で枠を立て、ここに、融かしたピッチを流し込みます。

 右が、新しいピッチ盤で磨いている様子。研磨材を酸化セリウムなので、薄茶色です。この研磨材はほとんど音が出ませんので、かなり細かいです。

 透明に見えるのが補正板本体で、緑色の3つ穴が開いている板が補正板を動かすハンドルです。放物面鏡では上に乗っかっている小さな円盤がピッチ磨き用の取手なのですが、5mmという薄いガラス板なので、ちょっと工夫が要ります。理論上のカーブの一番深いところを押さえるように、この写真では見えないのですが、リング上の戸当りテープで作ったパッドが間に挟まっています。
補正板の半径の0.86のところが最も深い溝なので、といっても18ミクロンですが、ここを上から押さえて、理想的なカーブに磨かれるよう期待しました。

 ピッチ盤の枠を見てもらえばわかるように、そのあたりのピッチの量が一番多く(100%)なんですが、この部分を押さえないとうまくいかないと思ったからです。もくろみがうまくいったかどうかはマイクロメータを持っていないので想像するだけです。
 ちなみに、補正板の中央には副鏡を取り付ける7cmぐらいの穴が開いているのですが、この穴は、同じ厚さのガラスを丸く切ってあてがい、全体がスムースな面になるよう埋めます。この穴補填のガラスは緑色のハンドルの方にピッチで取り付けられており、補正板は、そのガラスで水平方向に雨後される仕組みです。つまり、補正板はハンドルを上に上げると外れてしまいます。研磨中は、これが不必要にがたがたするとうまくないので、3点だけホットボンドで穴埋めガラスにくっついています。ですから、このままで両面交互に取り替えて磨けるようになっています。補正板と中央の穴埋めガラスがぴったり同じ面にないとピッチに段差が出来、なめらかに動かせないので、これを合わせるのが難しいのですが、取り付けるピッチの弾力でなんとかうまくいきました。
左の写真を見てください。研磨中に補正板とピッチ盤をはがした状態の絵です。上の、補正レンズに透けて見えている黒い輪が、戸当りテープを細く切って円形に貼り付けた”上からの押さえ”で、さらに、穴埋めガラスがピッチで取り付けられた中央の黒い部分が見えます。

 水平方向の動かす力は、この穴埋めガラスを通して伝わり、上からの力は半径0.86の部分にある戸当りテープで伝わりますから、余計な部分が磨かれてすり減る量が最小になるわけです。

 このような手段は、本には載っていません。私の考案です。

 ピッチ盤は研磨中、摩擦熱で多少温度が高くなりますので、時々、このように剥がして、乾燥しないようスプレーで水を補給します。研磨剤も時々補給します。通常は、この程度あれば十分です。酸化セリウムは実に研磨力が高く、この程度だと、ハンドルの3つ開けた穴から観察しながら磨くのですが、押さえると、ピッチ盤が密着したところは黒くなり、密着が足りないところは酸化セリウムの色になります。縦横に掘った溝のところだけが酸化セリウムの色となり、ほかはピッチ盤の黒い色が見えている状態が理想的に磨けているよい状態です。
一応、研磨終了!
写真を見ていただくと、わかると思うのですが、研磨状態は非常に良好で、透明感が今までになく高い状態で仕上がりました。新品同様の綺麗さです。
MEADE製は反射防止膜がコーティングされていて、新品の状態では、もう少しガラスの反射量が少ないとは思いますが、これ以上ないぐらいのクリアな表面になりました。落札した時の目で見てもわかるほどの曇りはもうありません。完璧に曇りは取り去られました。修正量が多少変わってしまったかもしれませんが、私に出来ることとしては最高の仕上がりです。大成功!期待以上でした。
 後は、夜空が晴れて月を観測するまでです。
実視テスト

その後、10日ほど天気が悪くてテストが出来ませんでしたが、本日夜十三夜くらいの月が出ていましたので、急遽光軸あわせをして、実視テストをしました。

完璧な光軸合わせは後回しにして、とりあえず月を見てみました。
 
 結果、満月に近い状態でしたがコントラストが格段に改善されており、真ん中でも細かいクレータまでよく見えます。ピントはこれまでになくシャープです。ただ、すぐに曇ってきてしまいましたので、ゾーンテストが未実施です。従って、収差が改善されたかどうか不明です。ピント調整が1点で合うというわけにはまだいっていませんが、厳密な検査が出来ないので、これ以上は求められないと思いました。一応、私の能力ではマキシマムだという結論です。研磨をこれ以上やっても良くなるかどうかの自信がありません。というのは、現在の方法では回転対称性の良い補正面を得るのは難しいかも知れないからです。コーティングの剥がれによる不規則痕というのがあるかも知れず、こういうのはなかなか解消しにくいからです。いっそのこと、もう1枚、補正レンズを磨いた方がいいかも知れないです。一応、念のために、高透過ガラスを購入してありますので、気が向いたら挑戦しますが、その前に、超薄ガラスの30cmカセグレンとか、別のチャレンジをいくつかやりたいので、一応、研磨の努力は報われ、やったー、大満足〜(*^ _ ^*)。一服すべし。


 
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