ストラト改     平井則行 2021.12.10
音が良いと気分が良く弾けて、良い演奏が出来ることを再確認し、そういうギターを目指しました。

 そもそも、ストラト・ギターは随分昔に買っていて、生産中止になったために投げ売られていたファーストマンのジャパン製モズライトアベンジャーモデル、の次に買ったギターなんです。(1975年のこと)。
 アベンジャー・モデルというのは盛岡一郎がモズレーに「4つの肝を守って作ればモズライトの音になる」と教えられ、その通り作ったギターで、いまでは絶滅種なんですが、それなりに面白い音が出ました。現在も持っています。
 次に、ストラトを買ったのは、まだ20代で、ギターのこともよく解らなかった頃で、フェンダーなら良いのだろうと思い買ったのですが、しばらくしてホワイトのジャパン・モズライトを買い、ほとんどそちらで練習し、主力としましたので、ほとんど弾くことなく40数年経ちました。このたび、何故突然復活したかというと、2021年の東京オリンピックを見ている最中に、時間がもったいないので、運指の訓練をしようとソファーに座ったままギターを弾こうとしましたら、ギターの丸い尻がソファーの肘掛けにぶつかり、弾きにくいったらありゃしない!という訳で、尻を逆に凹ましたボディ・デザインに変更することにしました。そこで、この遊んでいるギターが候補に挙がりました。ついでに、ストラトンは私にとっていくつか問題があったので、以下の改良点を加えました。

 その1.このギター(ストラト)はネックの取り付けがフラットで(ボディとネックの面が平行なので)、マイク位置の高さが低く、弾き慣れたモズライトに比べて1cm近くもブリッジの高さが低いので、ボディ面に薬指を支えに演奏する私のスタイルにまったく合わず、弾きにくいので、慣れるまで大変でした。これを解決するには、ネックの取り付けに角度を少し付けて、ブリッジの位置で丁度良い高さになるようにしました。この角度の調整は大変でした。

 その2.フェンダーストラトはブリッジに手のひらを被せて弾く、いわゆるミュート奏法がうまく出来ません。強いてやってもいい音が出ません。これは、ブリッジが非常に低いこととブリッジの構造自体に問題があります。そこで、ブリッジはモズライトの物を使い、7cmほど離して、後ろにフェンダーのブリッジを付けました。
 
 その3.マイクの高さ調整はピックガードの取り付けネジでやるのですが、改良ボディでは弦までの距離が遠過ぎるので、
     そのプレートを独立させました。したがって、マイクセレクターとボリュームなどのプレートとは切り離されます。(その後、ネックの取り付けを調整し直し、角度を小さくしましたので、弦が大分下がり、その必要は無くなりましたが)

 その4.マイクセレクターがストラトではボリュームの下の方にあり、操作性が悪いです。これは、よく見える位置が大事で、その点モズライトは優れていると思いました。だから、モズライトのような位置に移動させました。ついでに云うと、ギブソンのギターのように、弦の上に持ってくるのはやり過ぎでしょう。
 
 その5.ストラトのボディ形状は座って弾くには非常にやりにくく、腿の上にしっくり嵌まりません。かつ、滑らかに角度を付けて削ってあるので、滑って落ち着きませんので、この点は一切踏襲することなく、ボディ形状はまったく異形の形にしました。ご覧の通りです。なお、この形は、既にオリジナルデザイン・ギターで一度、採用しております。

 その6.このギターはセミアコ構造を取ってあります。その理由のひとつには、ボディを軽くするためと、響きを良くする目的と、いつも自作ボディを作るときの材料に一般のDIYに売っているホワイトウッドを使うので、その売られている厚さがギター・ボディの厚さに4〜5ミリ足りないので、ネックの取り付けネジの長さが余るので、その分、シナ材の合板で厚さをカバーするためです。そのついでに、ボディの裏をトリマーで削り、空洞を作り、共鳴胴にするので丁度良いのです。
 
 大きくは以上の点です。
 セミアコにした効果ははっきりと出ていて、音に独特のメリハリ感があり、魅力的な音になりました。

 なお、このギターではネックを薄く削ってはいません。ストラトの音も気に入ったからです。ネックを薄くすると音が大分変わります。音を決める要素としては一番大きいかも知れません。後、ボディの木材の堅さ。マイクとその磁石の強さ、形状、ブリッジも決定的です。それと、張っている弦も重要です。
加工過程
写真の通り、買ってきた板幅約26cm長さ約90cmを半分に切り、一方をさらに立てに1/2にし、
切った方を中心線に合わせて両側に貼り付けます。このとき切断は正確に垂直を守って切ることが大切です。
 売っている木材は角が丸く落としてあり、そのままでは貼り付けた後が凹みが残ります。このことを嫌って真ん中の板を両側、3mmほどシャープに切り落としましたが、これは不必要な行程だったと反省しています。あとで、ボディにカーブを付けて削ってしまうので、目立たなくなるからです。

 さらに、切断面の平坦性を気にしてカンナを掛けてしまったので、返って平坦でなくなり、接着痕が残りました。それをパテで隠しております。
ネックの取り付け角度を付けるために、治具を作ってトリマーで掘りました。このときの計算では1/30の傾斜で良いと思いましたが、ネックを取り付けて測ってみると、ブリッジの位置で離れすぎてしまい、3回やり直しました。ですが、この溝掘りは非常に大事です。ギターにはモズライトのようにネックの方に角度が付いていて、溝は一定の深さに掘れば良いのと、ネックには角度が付いて居らず、溝で角度を付けなければならない2種類があります。フェンダーはどちらも付いていなかったので、溝で角度付けを行いました。このことがなければ、この工程は非常に簡単なんですがね。
一応、基本的な切断と研削が終わったので、部品を並べて完成図をイメージします。この後、ボリュームや切り替えスイッチ、マイク・ジャック等の取り付け溝を掘ります。

 そして、セミアコ構造にするために、ひっくり返して、裏を大々的に電動トリマー(ルーターとも云う)で掘ります。)昔は、このような道具がなかったので、鑿でコツコツと彫りましたが、今では、大変楽になりました。ただし、木くずの細かいゴミで机の面がいっぱいになり、吸い込むので後で、咳が続きます。防塵マスクが必要でした。
参考のためにオリジナルのストラトのボディです。

ネックとボディの取り付け部の拡大写真をよく見ると金属のパーツがありました。これは恐らく加工精度が良ければ不必要だと思うのですが、ネックの取り付けの微調整に使うのだと云われております。
 私の角度はこの程度のアジャストでは追っ付かないので、二つ上の写真のような治具を必要としました。
右の写真は、オリジナルの配線図です。

ボディ形状が違うので、私の場合はピックガード自体が少し狭く、窮屈になりました。これは後知恵ですが、やはり、余裕を持たせた方が配線が窮屈にならず、綺麗に出来ます。次はないけれど、教訓でした。トーンコントロールの回路は非常に簡単ですが、効果的なように思われます。スリーマイクなので、切り替えスイッチの方が配線が重要です。ボリュームは3つとも250ΩのAタイプでした。これは、直線的に変化するBタイプではないのが特徴です。コンデンサー1つで高音と低音のカーブを作る特殊な物です。かなり、簡易的ですが、うまい方法だと思いました。
 
 下の写真は、今回の私のギターです。ご覧のようにちょっと窮屈な配置になりました。
セミアコ構造の加工写真を取ることを忘れたので(あまりにも埃ぽい状態で、写真を撮る余裕がありませんでしたので)、どれくらい彫ったか不明ですが、ネックからの中心部は強度を保つために彫らず、その左右を深さ3cmぐらいで彫っています。そして、今回は裏蓋のシナ合板に湾曲を持たせるために、中央部が合板1枚分の小さな板を張り、その周辺を、このように接着剤(いつもの木工ボンド)が乾くまで枠板で押さえつけております。この効果は、結構、空洞共鳴にはあり、音響的に良いものと判断します。次からはこれで行こうと思いました。乾燥に3日掛けました。木工ボンドは乾けば非常に強力で、元の木材が壊れても接着面は壊れません。
塗装のための振り回すネックの代用です。モズライト工場では本物のネック(もちろん塗装専用だと思いますが、)ネックを持って回しながら「たれ」を生じないよう塗装していました。今回は、私もその方式を踏襲してみました。ラッカーはすぐに乾くので、この方法で十分だと思いました。ただ、体格の良い外人が振り回すのは良いでしょうが、結構しんどいです。軽いボディなら5分も振り回していればラッカーが堅くなり、たれは防げますので、ちょっとした奮闘で済みます。ちなみに、このハンドの形は裏蓋を切り取った後の形なので変な格好をしているだけで、偶然です。

もう、裏蓋は付いています。
セミアコ構造では、ボディの振動を直接マイクが拾わない方が良いです。弦の振動に遅れて別の音で振動がくると、混変調ひずみというものが生じ、音が濁ります。特に、完全なアコースティック・ギターではマイクをボディーから浮かせるのは常識です。

 このマイクと弦の距離は重要で、あまり近づけると磁気ブレーキが弦に掛かり、音が歪みます。
故意に歪ませる向きには思いっきり近づけても良いのですが、音に濁りが生じますので、一般的には2mm程度にしておいた方が良いでしょう。クリーントーンを求める向きには、もう少し離すと良いです。離すと音量が下がりますが、綺麗な音で演奏できますよ。

そうそう、申し忘れました。このピックガード用のプレート、カインズ・ホームで良いのを売っていましたので強調して報告しておきます。
 アルミの薄板を両面に貼ったプラスチックの複合板です。アクリル板より安いくらいで、強度も曲げにも強く、なにより、穴を開けてアルミに接着するようにネジでアースを留めれば、ノイズを極めて強力にシャットアウト出来ます。本当はアルミ板の方が理想的ですが、値段は遙かに高くなりますし、重さも少し増えるでしょう。フェンダー・ギターではこのようなピックガードの回路の部分にはアルミ箔を貼ってありましたが、そんな物よりちゃんとしたアルミ板を貼った方が良いのは云うまでもありません。上の写真のように、配線にシールド線すら使っていないのですよ。近くに電気器具などがあると、特に、デジタル機具などがあると高周波ノイズが入り、しっかりシールド加工しておかないと現代ではノイズまみれの音になります。