教育について    平成19年7月31日 

          
 人が人を教えることの考察
 以下、論旨を明確にするために、あえて極端な物言いをすることを、あらかじめお断りする。よって、『物言い』だけを批判するのは見当違いである。

キーワード:教育の究極の目的は【知識の増殖】である。
  
(1)人は自分と同じ人間を本能的に作ろうとするものだが、そこには必然の【陥穽】があり、うまくやらないと「自己」は絶滅する。
※なぜ、知識の増殖を期待するかというと、話の通じる人間を増やしたいからであり、これが孤独という絶滅の危機から脱する唯一の方法だからである。
原因 
 その1 自分と同じ生い立ちや経験から来る予備知識を前提とするが、概ね不完全か、ほとんど被教育者は持っていないこと。
 その2 過去、現在、未来に亘り、その知識が必要とされる場面の可能性は教育者に於いては大きかったかも知れないが、被教育者に於いても大きいと思うこと。
 その3 被教育者が理解できない場合、説明の仕方が悪いと思うこと。→よくある陥穽の典型
【対策】
 ア 可能な限り共通の経験を用いて、説明すること。
 イ 可能な限りありそうな場面を設定してあげること。
 ウ 教え方が悪いのではなく、被教育者の気持ちを設定し損なっただけなので、まずその気にさせること。→この技法が教育力である。簡単に言うと『おもしろがらせること』に尽きる。

キーワード:教育は【金魚掬い】である。

(2)教育者の性急な態度が、被教育者の心を掬い損なう。
原因
 その1 理解すると言うことのメカニズムの研究が足りない。→教育者自身が、どのように面白がったかを忘れてしまう。
 その2 理解は理論の筋道を人から教わるのではなく、自分で発見して初めて【理解】する。→被教育者一人一人の中に【宇宙】が誕生する。
 その3 理解とは個人的な経験であり、経験を通してしか理解できない。
   →疑似体験→イマジネーション

キーワード:教育はやはり【劇場】である。

(3)昔の子供と現代の子供は違う。
原因
 その1 【悲しみの経験】がないと理解できない類の知識がある。→【絶望の経験】がないと…、【後悔】がないと…、以下同様
 その2 【窮乏】がないと【豊かさ】の意味がわからない。
 その3 【豊かさ】の意味がわからないと、人は向かう方向を見失う。
  
キーワード:教育は【ゼロからの出発】である
 
(4)前の時間の復習から入るのは間違い。
理由
 その1 一番最初は、なぜ、それを学ぶか?である。
 その2 次に、そこにおける様々な知識を学ぶが、なぜそれを学ぶかは忘れがちである。
 その3 毎回、ゼロからの出発をしてくれると、高みに登る加速度が増すので、スリルを味わえる。

【対策】 前に説明したことを、それとなく使ってゼロからの出発を常に行い、高みに登らせると、被教育者には【気づく】という発見の喜びが味わえる。

思考過程について
自衛隊式思考過程は目的達成において有効な方法だが、フィードバックがないという致命的欠点がある。

キーワード:思考過程は【定性的な議論】であり、世の中の困難は概ね【定量的】である。

(1)迷いのほとんどは【量的なもの】なので、敢えて物事を【定性的】に考えると、とりあえず目的を達成することが多い。
理由
 その1 軍隊の究極の目的は任務達成である。
 その2 困難は【量的なもの】なので、特別な才能はいらず、努力でクリアできる。
 その3 質的な困難は、最初から思いついていないので、問題とならない。
(2)最短距離の問題解決を最良とするパラダイムにより、単純化が好まれる。
理由
 その1 軍隊の構成メンバー全員が理解できる方法でなければ失敗する、という経験則がある。
 その2 軍隊は数が支配する世界であり、昔から物量(努力)で圧倒するのが正攻法である。
 その3 少数精鋭は、本当は異端の徒である。桶狭間の戦いはまねをしてはいけない。(『特攻』も外道の戦術であった。)
(3)『任務達成のためなら、どのような努力(損失)も厭わない』という美意識がある。

キーワード:ゼロ指向と無限大指向のふたつの人種がいる。

(4)行動の出発点を『問題点』にとると、『対策』、『次年度への反映』という思考過程となる。
理由
 その1 なぜならば、『問題点』以外には考えるべき対象がないからである。
 その2 日本の自衛隊は『問題点』以外を考えてはいけない組織である。
 その3 『問題点』以外に何があるかというと、『真理探究』とか、『富の拡大生産』とか、『果てしない欲望の充足』などがある。 
※これらは、『問題点』を再生産するので、考えてはいけない。(たとえば帝国主義)
 よって、ゼロ指向のパラダイムにより、思考過程のフィードバックは決して行われない。
 
(5)行動の出発点を『価値の創生』にとると、『ゼロ指向』の思考過程は破綻する。その場合、採るべきパラダイムは『無限大指向』である。この思考過程ではフィードバックが強力に働き、量をコントロールすることが中心課題となる。というか、量が問題である。すなわち、悩みそのものである。
  
※なぜこの問題に関心を持つかというと、『心の育成』は絶対にゼロ指向の所作では無いからである。このことを、よくわきまえて教育に当たらないと、教育改革は方向を誤る。現代の教育界が陥っている負のスパイラルは『問題解決』のみを求めるゼロ指向のパラダイムであった。
※ドラえもんの『どこでもドアー』やタイムマシンはあり得ない精神の遊びであるが、この遊びの精神を借りると、物事の本質がよくわかるものである。歴史的にはクリエイティブ・エラーが発明発見を生み出した。人間の精神は、エラーの固まりだと思っている。以上